講義概要

 
平成30年度第7回リンパ浮腫セラピスト養成講座

 
 

廣田彰男(医療法人社団広田内科クリニック)
「ケース・スタディから知るリンパ浮腫の治療」講義内容
 
 リンパ浮腫の患肢腫脹は必ず左右差があり、基本的には色調の変化や疼痛は伴わない。病期はStage,Ⅰ,Ⅱ,Ⅲに分類され、合併症としては多毛症、角化症、リンパ小疱、リンパ漏、接触性皮膚炎、真菌感染、帯状疱疹、蜂窩織炎などや極めて稀にリンパ管肉腫がある。治療はリンパドレナージ、圧迫、圧迫下の運動およびスキンケアを含んだ複合的理学療法として知られるが、さらに患肢挙上などの日常生活指導を加えた内容を「複合的治療」(または「複合的理学療法を中心とする保存的治療」)と呼び、リンパ浮腫における標準的治療とされており、2016年診療報酬改定に掲載された。
 リンパ浮腫は近年比較的知られるようになったが、上記の複合的治療が行える状況は主に合併症のないStageⅡ以降であり、その意味では鑑別診断が極めて重要で、不要な治療で患者に負担を強いることは避けたい。特に、臨床の現場でよく遭遇する緩和ケアや高齢者に見られる廃用性浮腫などはリンパ浮腫でないケースが多いことは念頭に置くべきである。
 
 

 

加藤征治(大分大学名誉教授)
「解剖学・生理学・免疫学」講義内容  
 
人体の循環系は血管系とリンパ系(第二の循環系)から成り立っています。成人の体にある水分量は、体重当りおよそ60%程度(新生児70%以上)であり、体液(血液・リンパ液)の循環により常に一定に保たれています。循環系としてのリンパ系はリンパ(液)とリンパ球・リンパ節(組織)、それらを運ぶリンパ管とから成り立っています。当講座(解剖学・生理学・免疫学)では、まず「リンパはどうして生じ、どのように流れるか?」、「リンパの流れが滞るとどうなるか(リンパ浮腫の基礎)、反対に「流れがよくなるとどうか(代謝)?」など、生体組織でのできごとやリンパ組織の構築や水分代謝の生理的現象など基礎的な学習をします。さらに、「免疫戦場としてのリンパ節で何が起こっているのか」、「生体防御・免疫機能を果たすためのリンパ系の関与(リンパと免疫)」や「がんのリンパ行性転移」などについて、リンパ浮腫セラピストとして重要な医学・医療知識を習得します。
 

 

北村 薫(医療法人貝塚病院 乳腺外科部長)
「リンパ浮腫総論、診療ガイドラインとEBM」講義内容
 
「リンパ浮腫総論」
リンパ浮腫は卒前教育では詳しく学ぶ機会がないので、これから学習する内容がより具体的にイメージできるようにリンパ浮腫のメカニズムや診断、指導管理上の注意、基本的な治療方針や治療選択肢の優先順位などを概説し、スムーズに各論に入っていけるように誘導します。
 
「診療ガイドラインとEBM
リンパ浮腫についても他の疾患同様に「科学的根拠に基づいて治療方針を立て、実施する」必要があります。リンパ浮腫診療ガイドラインの中からとくに実践に直結するClinical Questionをピックアップして解説するとともに、診療ガイドラインの作成方法を知ることでEBMの重要性を学びます。
 
 

 

岩田博英(いわた血管外科クリニック)
「静脈疾患とその治療、圧迫療法 基礎理論、包帯具体・圧迫圧測定」講義内容
 
「静脈疾患とその治療」
リンパ浮腫の鑑別診断で最も注意を必要とするのが静脈疾患です。
深部静脈血栓症、深部静脈血栓後遺症、下肢静脈瘤、血管形成異常などが具体的疾患ですが、リンパ浮腫と併存することもあり注意を要します。
静脈超音波検査が鑑別診断に有効です、大・中病院では普及してきたが小病院、一般のクリニックでは、まだ普及していないのが現状です。
医療関係者として、静脈疾患の最低の知識を勉強してもらいます。
 
「圧迫療法 基礎理論」
圧迫療法は、リンパドレナージにより改善された患側四肢の状態を よりよい状態で保持するために必要不可欠です。弾性包帯、弾性着衣(弾性ストッキング)が主なものであるが、間歇的空気圧迫法なども含まれます。
圧迫療法の基礎について勉強し、実際 臨床の場で困った時にも 基礎から考えなおす能力をみにつけたいものです。
 
「包帯の具体・圧迫圧測定」
包帯を実際に巻いて圧測定を行い、どのくらいの強さで巻いているかを経験します。
 
 

 

浜田裕一(福岡赤十字病院 形成外科部長)
「頭頸部、皮膚科・形成外科疾患領域のリンパ浮腫、リンパ浮腫の外科治療①、リンパ浮腫の外科治療②、リンパ管ICG蛍光造影法によるリンパ浮腫可視化と臨床応用」講義内容
 
外科的治療の分野はここ10数年で大きく変化し、進歩した領域です。私の患者さんの中にも圧迫などの保存的治療から完全に脱却できた方や難渋する反復性蜂窩織炎が緩解した方もいます。厳格な保存的治療の遂行・継続が困難な幼小児や麻痺を有する方においても保存的治療とは異なるアプローチで成果を挙げています。しかし外科的治療単独の効果は非常に大きいものから微力なものまでみられ、まだまだ発展途上の分野と考えています。
 
皆様方と同様に外科医は直接患者さんの身体に触れ、治療をするという点では共通点があります。今回の講座では外科的治療のことを知り理解していただくことで我々が共に手を携え、一致団結してリンパ浮腫という難題に立ち向かうことの重要性をお伝えしたいと思います。互いの長所を活かし、欠点を減らすという作業は患者さん夫々に異なり、テーラーメード治療計画が必要です。そのために我々、外科医の行っている診断法、評価法は必ずお役に立てると思います。
 
本セミナーでは外科的治療の歴史に始まり、試験的で先鋭的な将来を見据えた治療までご紹介します。多くの患者さんにLVA(リンパ管細静脈吻合術)などの外科的治療を行ってきた経験から、各手術法の特徴、効果や欠点までお伝えします。蛍光観察に代表される様々なmodalityの進歩が浮腫病態の理解に役立っており、それらをどのように手術に活かすかだけでなく、保存的治療との関連性も紹介します。
 
リンパ系の発生学・解剖学に関連して、リンパ管周囲微小構造の研究を継続しています。最近では研究成果を手術に反映させ、短時間の手術でより高い効果を得られるように効率化が進んできました。リンパ管ICG蛍光造影に関する臨床所見と併せた講義は保存療法に応用することでレベルアップも可能な内容です。症例や術中ビデオを供覧しながらの講義となります。
 
過去の本講座における受講生の反応・反響を考慮した内容も盛り込んでいく予定です。
 特にリンパ管ICG蛍光造影に関する実習は貴重な経験となるはずです。
 

 

木村正彦(福岡記念病院 放射線科)
「放射線治療」講義内容
 
「真に各人が輝き、充実した生き方を求める時代となりました。医療も最近は、ようやく、治すだけを目指すのでなく、いかに治すか、その後、いかに楽しく過ごせるように治療できるかが、より重視されるようになりました。その為にも、医療に携わる、各エキスパートがそれぞれの役割を果たし、患者さんのケアを行うことが、より重要だと思います。さて、リンパ浮腫に対して、その要因の一つと言われていた放射線治療も、機械、技術の進歩などで、随分変わってきました。リンパ浮腫セラピストを目指す皆さんには、日頃関わりの薄い、放射線治療について、私からお話しさせていただこうと思っています。
内容としては、放射線治療の歴史、適応、副作用(有害事象)、現在の話題などを考えています。お会いする日を楽しみにしております。」
 
 

 

唐原 和秀(独立行政法人国立病院機構 西別府病院 九州リンパ浮腫センター 外科)
「臨床解剖・生理学の視点からリンパ浮腫を学ぶ」講義内容
      
浮腫の特殊な病態であるリンパ浮腫をできるだけ臨床解剖や生理学の視点から学習することによって、より多くの患者さんの病態に対応・応用できるようなっていただきたいです。セラピストは、問診、診察、必要な検査、鑑別診断を通じて、まずは正しくリンパ浮腫を診断し、その病期、重症度を判定する必要があります。そして、世界的な標準治療であるフェルディ式複合的理学療法と蜂窩織炎の病態、治療、肥満のコントロールを中心とした生活指導を合わせた複合的療法の援助をしなければなりません。さらに、臨床では、超重症例や特殊な病態症例、抗癌剤の副作用としての浮腫、浮腫に伴うリンパ漏や難治性潰瘍の治療にも携わる必要があります。外科的な治療であるリンパ管静脈吻合術についてもその概要、適応などについて患者さんにアドバイスができなければならなりません。これらについて、できるだけ多くの実際の症例に基づいて講義させていただきます。
 
 

 

山口美樹(独立行政法人 地域医療機能推進機構 久留米総合病院 外科・乳腺外科
「続発性リンパ浮腫 ~乳がん~」 講義内容
 
乳癌は女性の癌の中で罹患数が第一位の疾患です。また、社会的にも、家庭の中でも重要な役割を担う40代~60代にピークがあり手術可能な乳癌の治療にあたっては社会復帰を目指すことも目標となります。
治療においては手術、放射線治療、薬物療法の集学的治療で根治をめざします。しかしながらそれらの治療はどれもがリンパ浮腫の要因となり得ます。その歴史、変遷、現在の標準治療、さらに治療の後遺症を避ける取り組みについて一緒に考えていきたいと思います。
また、進行した状態あるいは再発乳癌患者さんのリンパ浮腫については個別対応が必要となりますがその際にはチーム力が必要となります。エビデンスが乏しい分野ではありますが、症例を交えて各職種で検討しましょう。
 
 

 

神代 正臣(北九州市立医療センター 麻酔科)
「緩和ケア概論」講義内容
 
 緩和ケアは生命を脅かす疾患による問題を抱えている患者・家族に対し、身体面のみならず精神・社会・スピリチュアルの面からも早期から対処し、つらさを予防し、和らげることにより生活の質を改善する活動である。終末期だけではなく病期の早期から係わっている。
 生命を脅かす代表的な疾患である悪性疾患を中心に講義を進める。痛みの診断、治療、その他消化器症状、呼吸器症状、泌尿器症状、神経症状、全身倦怠感、不安・抑うつ、せん妄の診断と治療について述べる。薬物療法では鎮痛薬、鎮痛補助薬、医療用麻薬、抗精神薬を中心に概説する。
 

 

大西ゆかり(人間環境大学松山看護学部 准教授、看護師、リンパ浮腫セラピスト)
講義概要
 
「リンパ浮腫のクリニカルパス」
複合的治療はリンパ浮腫の保存的治療で、①スキンケア、②リンパドレナージ、③圧迫療法、④圧迫下での運動、⑤日常生活上の注意点を守ることを組み合わせて行う治療です。画一的な治療法のように感じるかもしれませんが、患者さん一人一人のリンパ浮腫の病期や症状に合わせた治療を行うことが重要です。
2005年から第3次対がん総合戦略研究事業「患者・ 家族・国民に役立つ情報提供のためのがん情報データベースや医療機関デーベースの構築に関する研究」の小班として、「がんクリニカルパスデータベース構築に関する研究」が行われました。その事業の中で、リンパ浮腫の基本パスの作成・検討が行われました。この講義では、リンパ浮腫の基本パスを中心にエビデンスに基づいたリンパ浮腫診療についてご紹介します。
 
 
「患者指導」
 がんと診断され、がん治療を受けたときからリンパ浮腫発症のリスクが生じます。リンパ浮腫発症のリスクを最小限にしたり、リンパ浮腫の重症化を予防したりすることが、がん患者さんのQOLの維持や向上につながります。患者さんが自宅でのセルフマネジメントをどのように実践するかによって、リンパ浮腫の重症化の程度は異なります。したがって、リンパ浮腫ケアにおいて、患者さんが主体的にリンパ浮腫のセルフマネジメントを行い、リンパ浮腫や蜂窩織炎の初期徴候を早期発見することができるような患者教育を行うことが重要です。
この講義では、成人を対象とした患者教育に有用な学習理論や患者さんの学習効果を高めるための教育方法についてご紹介します。